厚生労働省の雇用動向調査によると、2019年の一年間に離職した人は約785.8万人。

そのうち個人的理由で離職した人は約579.3万人でした。そして、個人的理由で離職した人のうち『介護・看護』を理由とする人は、約10.02万人。

認知症の介護(もしくは看護)となると、現実的に仕事をフルで続けることが難しくなっていくかもしれません。

収入は減少・・・それに加えて、親が認知症などで判断能力を失うと、その資産は凍結されてしまいます。

子どもは、親が老後のために蓄えていた預貯金を代わりに引き出すことができません。

親名義の家なら、売却することもできません。

親の年金だけでは生活費をまかなえなければ、親の生活費を肩代わりしなければなりません。

その結果、暮らしが行き詰まる・・・。この姿は想像に難くありませんが、そんな事態を防ぐ手段の一つに『家族信託』があります。

『家族信託』で資産凍結を防ぐことができる!

とある歳代の女性は、80歳代の母親が忘れっぽくなったことを不安に思い銀行に相談したところ、こう言われて驚いたそうです。

「このままいくと、お母さんは預金をおろせなくなります」

親が認知症や病気で判断能力を失った場合、銀行は親の財産を守ろうと預貯金を凍結するため、子どもは引き出せなくなります。

銀行に知らせなければ、親の暗証番号を使い、こっそりATMで引き出すことも可能ですが、銀行が不審な動きに気付き凍結される、といったこともあり得ます。

資産が凍結されれば、不動産も売却できなくなります。

もし、親(認知症になったご本人)が「介護が必要になったら、家を売ってお金をつくって老人ホームに入る」と考えていたとしても、それもかなわない事態になるのです。

そうならないよう、本当に信頼できる家族へ事前に資産管理をゆだねておくというのが『家族信託』です。

家族信託って、何?

たとえば、

  • 老人ホームに入る時に家を売りたい
  • 資産を孫の教育費に充てたい

、、、といったような希望をもっているならば、『家族信託』を検討して欲しいです。

この女性は銀行の指摘を受けて両親、姉妹と相談し、家族信託を利用することにした。

両親名義の実家や母親名義の土地を、女性が売却できる形に変更。

家族信託用の口座も開き、親の貯金の一部をその口座に移した。

その後、認知症が進行し、女性の母親は老人ホームに入居することになりました。

『家族信託』契約を結んでいたおかげで、土地の一部を売り、信託用の口座のお金を使って、月20万円ほどの老人ホームの利用料などをまかなうことができたとのこと。

家族信託の特徴

家族信託は、オーダーメイドで契約内容を柔軟に組み立てられるのが特徴です。

  • 不動産は、管理だけで売却はしない
  • 預金の使い道は、自分の生活費と孫の教育費のみ

、、、などなど、さまざまな希望を盛り込むことができます。

親から資産を委託された子どもは、何にいくら使ったか記録することが義務付けられます。

不正使用がないよう、兄弟姉妹らを監督に指定して、領収書や口座残高をチェックする仕組みにすることもできます。

ただ、実際の手続きは複雑なため、司法書士など専門家と話し合い、最終的な信託内容は公正証書で残すのが良いですし、それが一般的です。

成年後見制度の利用も検討する

資産凍結を防ぐ方法には『成年後見制度』もあります。

判断能力があるうちに自分で後見人を選ぶ『任意後見』と、判断能力が失われてから家庭裁判所が後見人を選ぶ『法定後見』です。

『任意後見』では、親が子どもを後見人に選ぶことができますが、家族信託と異なり、弁護士らが監督人になるため、報酬を払い続ける必要が発生します。

支出する際の制約も大きいです。

たとえば、孫の教育費など、親以外のための支出は難しくなります。

『法定後見』では、家族らの申し立てを受けて家庭裁判所が後見人を選びますが、親に一定の財産があると、家庭裁判所は弁護士など法律専門職を後見人に選ぶケースが多いです。

法律専門職が後見人になると、月数万円の報酬を支払い続ける必要があります。

さらに、実家を売却しようと家庭裁判所に求めても、先に預貯金を使うよう指導されることが多いので、実際に活用するとなるとハードルが高いと言えます。